Last Orders

・Last Orders / Fred Schepisi / 2001年英 / 109min. / DVD

引退したら海辺のバンガロウで過ごそう、という歌があったっけ(XTC-'Bungalow')……庶民のささやかな夢。

コックニーの肉屋ジャック(マイケル・ケイン)の遺灰を遺言に従いMargate Pierから海に撒くために出かける親友たち(ボブ・ホスキンス、トム・コートネイ・デヴィッド・ヘミングス)と息子(レイ・ウィンストン)の、車での道中。それだけの話だが、施設にいる娘ジューンを最期まで受け入れることができなかった(と妻は思っていた)ジャックをめぐる、それぞれの回想と秘密が交錯し、50年の歳月が重みを増す。息苦しくなりそうな話だが、だてに年をくっていない親父の集団だから(遺灰の)ジャックを交替で抱えて軽口を叩きあい、老体に鞭打ちながら登る坂道では太った男たちがあやうく脱落しかかるなど楽しい場面も。 "Bloody army!""Bloody navy!" "Bloody tourist!"

f0134076_13163695.jpg立ち寄ったカンタベリー大聖堂でトマス・ベケットのステンドグラスを見上げるボブ・ホスキンスの姿、ジャックとエイミー(ヘレン・ミレン)が出逢い、ジューンが宿り、自分の出生の秘密を知った農場にジャックの遺灰の一部を撒く「息子」(レイ・ウィンストン)、霧雨にけぶる堤防で遺灰の散った先を見つめる男たち、どの場面も印象的だが、せっかく起用したトム・コートネイ(葬儀屋-Mr. Rest In Peace)の見せ場がなくてコートネイのファンでもあるわたしにはとてももったいなく感じた。

ヘレン・ミレン姐さん登場の場面。赤いペンキで塗られた店から真っ赤なコートで登場し、(同色の)二階建バスに乗り込む場面で既に、ただのおばさんではないという激しさが暗示される。そしてジャックの一番古い親友であるレイ("Lucky"、エイミーにとっては"A little ray of sunshine")を演じたボブ・ホスキンスが『モナリザ』級(最大級ということ)!影の主役は彼かもしれない。そういえばホスキンスとミレンは"Long Good Friday"でも息の合ったコンビだったなぁ。

マイケル・ケインの「いつか自分の父親を演じる時が来ると思っていた」との言葉どおり、"Last Orders"は彼の父親が癌で亡くなった病院で撮影され、彼自身にも長年生き別れになっていた(重度の障害のある)兄がいる。 Peckhamにはケインの通ったWilson's Grammar Schoolがあり、イーストロンドンで育ったレイ・ウィンストンは『アルフィー』『長距離ランナーの孤独』で見た憧れの映画スターたちとの共演に興奮したと言う。

原作 『ラストオーダー』のヴィンス。
肉屋「ドッズとその息子」の店主ジャックとエイミー夫婦の養子、空襲で孤児になったところをエイミーに引き取られた赤ん坊だった。夫婦の実子ジューンは障害児で、50年間施設に預けられたまま。夫婦にとってジューンは「偶然(できちゃった子)」、自分は「選択」だったが、ヴィンスはふたりが本当に欲しかったのはかわいくて健康な女の子だということを知っている。休日のドライブに一緒に連れて行く貧しい親友の娘サリーを、決まって自分たち(運転席と助手席)の間に座らせるからだ。彼が頑なに「ドッズとその息子」を継ごうとしないのは、ジャックに見捨てられたジューンのため。
「ヴィンスのアネキ、頭はタマネギ」
ジューンなんて姉さんなもんか。ぼくに姉さんなんていやしない。
そして確かにその人はおれの姉さんなんかじゃなかったけれど、おれはその人のため、その人のぶん、ますます強くひっぱたいた。その人は自分じゃひっぱたくことができないから、その人のかわりにひっぱたいてやったんだ。おれも前は、つまりジューンのことを全然知らなかったころは、だれかの代わりに人をひっぱたくということはなくて、ただひっぱたいていただけだったが。(p132)

この作品にはひとりひとりの心の奥に秘めた小さくて深い思いやりや、誰にもいえない悲しみがほんとうに巧みに配置されている。だから再読・再見を繰り返してしまうのだ。
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by drift_glass | 2007-04-07 07:53 | 観る  

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