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妻は二度死ぬ

・ジョルジュ・シムノン『妻は二度死ぬ (Les innocents)』
「しかし、アネットは私のことをそれほど愛してくれたわけじゃないんだ。
彼女は、私の妻だったし、妻としての務めをはたすために私を愛してくれたようなものだったんだよ。
けっしてそれ以上じゃなかった、……そう思わないかい」(p184)
「奥様はだんな様の生き甲斐をとりあげてしまうほどむごい方じゃなかったんでございます……
だんな様は奥様を信じきって、お幸せでいらっしゃいましたし……
まるで気持のいい真綿にくるまってらっしゃるように……」(p212)

シムノン作品にはもともと妻や母親の存在が希薄だったが、
『男の首』である人物がメグレに語った
「自分もやっぱり死ぬ時に母親を呼ぶかどうか、そいつにちょっと興味があるんですよ」
という言葉が作家の本音かもしれない。

『母への手紙』
発表当時当時シムノン71歳/母親の死から三年後。
お母さん、あなたが生きている間、ぼくたちは愛し、愛されたことがなかった。
二人とも愛し合っているようなふりをしていただけだ。(『母への手紙』)

相当深いところに根ざしていることが窺える。

by drift_glass | 2004-05-20 20:03 | 読む  

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