<   2007年 04月 ( 52 )   > この月の画像一覧

 

プリズマティカ

・サミュエル・R・ディレィニー「プリズマティカ」
Prismactica
訳:浅倉久志
「きみがポケットに詰めこめるだけの真珠と、片手で運べるだけの黄金と、もう一つの手で持ちあげられるだけのダイヤと、真鍮の鍋で井戸からすくいあげられるだけのエメラルドと―これだけのものとひきかえに、手をかしてもらえないか?」
「で、何を手伝えばいいんだい」
「宝を捜すのだ!偉大で年老いた怖しい魔法使いによって三つに割られた鏡の中にある、幸福という名の宝を」

鮮やかな色に頭痛をおこすという灰色男は話し方までワンパターンで(読者にはそこがかえっておもしろいのだが)、彼が「一番身近で大切な友だち」と呼んでいるものが、なぜ厳重に錠を下ろしたトランクに閉じ込められているのだろう?その正体は?もちろん、それが外に出ていると、彼にとって都合の悪いもの。
灰色男のもっとも幸福な瞬間とは、この世からあらゆる色彩が失われる時なのでは?

「この人びとは、彼らが出会う人間を片っぱしからだまし、そしてこの世界の色彩ゆたかなものをなに一つ楽しむことができない」
子どもには、イマジネーションで読む絵本であり、大人には寓話であり。
「虹をつかむ男」のジェイムズ・サーバー(1894~1961)に捧げられた作品。史上最小のピンチ・ヒッター(こびとだからストライクゾーンが厳しいね)が登場する「消えたピンチ・ヒッター」を野球小説アンソロジー『12人の指名打者』(文春文庫)で読んだっけ。

プリズムは漢字で「三稜鏡」と書く。ふつう波長の違いを利用した分光(色分解)に使われる正三角柱のものが連想されるが、直角二等辺三角柱(直角プリズム)、五角柱(ペンタプリズム)のものもあるそうだ。
[PR]

by drift_glass | 2007-04-26 16:34 | 読む  

ヘンショーの吸血鬼

・ヘンリイ・カットナー「ヘンショーの吸血鬼」 『ボロゴーヴはミムジイ』所収
Masquerade
訳:浅倉久志

雷鳴とどろく豪雨の中たどり着いた宿。愛妻と二度目のハネムーンだというのに、尖った犬歯をもつ宿のあるじに通された部屋はかび臭く、ウィスキーの壜にはくもの巣などはりついている。窓には鉄格子がはまり、外で蝙蝠の羽音が聞える。生肉をほおばるあるじの息子。
この宿は間違いなく……
「このおそろしい家!ああ、あたしたち死んだほうがましだわ!」

ヘンショーならぬ「変装の吸血鬼」かな。うふふふふふ。
[PR]

by drift_glass | 2007-04-20 08:15 | 読む  

ボロゴーヴはミムジイ

f0134076_1838399.jpg・ヘンリイ・カットナー「ボロゴーヴはミムジイ」 (1942)
Mimsy Were the Borogoves 
訳:伊藤典夫

7歳のスコットが川岸で見つけた黒こげの箱には、不思議なおもちゃが詰まっていた……

そうかそうか、遠い世界から送られた二つの箱のもうひとつの行き先「19世紀」とは……。
ルイス・キャロル「鏡の国のアリス Through the Looking-Glass, and What Alice Found There」に出てくる「ジャバーウィックものがたり Jabberwocky」は、語と語をあわせてひとつの言葉となった「かばん語 (ルイス・キャロルによる造語 portmanteau)」で綴られたナンセンス詩。
'Twas brillig, and the slithy tobes
Did gyre and gimble in the wabe;
All mimsy were the borogoves,
And the mome raths outgrabe.

タイトルは"All mimsy were the borogoves"(すべて衰弱ぼろ鳥のむれ/岡田忠軒訳)より。
条件づけされていない子供の思考回路、可能性は無限。大人たち、また少し育ちすぎた少女にはわからなかったことも、7歳と5歳の自由な思考にかかれば……
おとなが幾何を使うところを、子供たちは代数を使っている
The Last Mimzy
Roger Watersが主題歌"Hello (I Love You)"を歌う映画ではFBIまで登場するみたいだけど、アルマゲドンみたいな映画になっちゃうの?
……映画タイトルでWikipediaができていた。完全に原作と離れたストーリーだなぁ。
[PR]

by drift_glass | 2007-04-18 18:37 | 読む  

カイトマスター

・キイス・ロバーツ「カイトマスター Kitemaster」

Interzone誌創刊号に掲載、1983年イギリスSF作家協会賞(BSFA)受賞作。
「SFの本 第4号」所収 訳:颯田幼

連作短編集"Kiteworld"は邦訳なし。
1. Kitemaster (1982)
2. Kitecadet (1983)
3. Kitemistress (1985)
4. Kitecaptain (1985)
5. Kiteservant (1985)
6. Kitewaif (1985)
7. Kitemariner (1985)
8. Kitekillers (1985)

核戦争を生き延びた人々の子孫が住み、ヴァリアント教会の支配下にある「王国」が舞台。荒廃した<悪地帯>の悪魔の侵入から王国を守るため、厳しい訓練を受けた<監視員>が巨大なコーディーカイトに乗り込み上空から徹夜で国境の空を見張っている。<カイトマスター>はヴァリアント教会の重鎮にある司祭で、巡回先の監視責任者<カイトキャプテン>とは昔一緒に飛行士(フライヤー)訓練を受けた間柄らしいが、いまやお互いの立場は大きく隔たってしまった。なにかと挑戦的な物言いをするカイトキャプテンが態度を変えたのは、カイトマスター自身も飛行して<悪地帯>を見たことがある、と聞いた時だった……
晴れた日、低空飛行していると、ときどき……見えてくるんだ。人間が見てはならないものまで。でもあれは悪魔なんかじゃない。おれはあいつらもおれたちと同じ人間なんじゃないかと考えたことがある……
f0134076_16403428.jpg残念ながら「カイトマスター」しか邦訳がなく、全容がつかめないが、カイトワールド全エピソード(もちろんカイトワールドが舞台という遺作''Drek Yarman''も含め)、訳出されないかなぁ。
Let's keep our fingers crossed!

アメリカ人Samuel F. Codyがイギリス軍のために製作した、4つの大きな凧で人間を揚げるコーディカイト(Cordy kite)は、20世紀初頭には戦争の偵察用に使われていたそうだ。
From the publisher:
The Realm of Kiteworld has survived nuclear catastrophe and is governed by a feudal and militant religious oligarchy - the Church Variant. In the other Badlands, real or imagined Demons are kept at bay by flying defensive structures of giant interlocking Cody kites, piloted by an elite and brave Corps of Observers.

[PR]

by drift_glass | 2007-04-18 16:16 | 読む  

白バラの祈り― ゾフィー・ショル最期の日々

・マルク・ローテムント監督『白バラの祈り ゾフィー・ショル最期の日々』(2005年独)
Sophie Scholl: die letzten Tage
f0134076_199364.jpg
ドイツにおいて1942年夏から数度にわたり反ナチ、自由を呼びかけるビラを密かに配布してきた学生の抵抗組織「白バラ」。 1943年2月18日ミュンヒェン大学構内で兄と共に反政府的内容のビラを配布したかどで秘密警察に連行され、2月23日国家への反逆及び利敵行為に関し有罪、死刑判決、その日のうちにギロチンで斬首されたゾフィー・ショルに焦点をあてた作品。

ゾフィーが小さな窓に切り取られた空を見上げ、神に祈る姿が繰り返し映し出される。最初は自分のために、物的証拠が発見されてからは家族や友人の無事のために。せまりくる死への恐怖と闘いながら、最後は自分の良心に正直でいられるようにと祈る。

f0134076_22113792.jpg山下公子『ミュンヒェンの白いばら』(筑摩書房)によると、取調べにあたった捜査官や同房の政治囚、死刑が執行された収監先のシュターデルハイム刑務所員らがみな、ゾフィーたち3人の毅然とした態度にうたれたと述べている。
それから、処刑場へ行く番になった。
まず初めに女の子から。あの子はまつ毛一本ピクリともさせないで出て行った。
私達は皆、そんなことがあり得るなんて全然考えられなかった。死刑執行人は、あんな死に方をした人間を見たことがないと言っていた。(『ミュンヒェンの白いばら』p312-313)
[PR]

by drift_glass | 2007-04-16 19:11 | 観る  

影の私刑

・フランク・ロッダム監督『影の私刑』(1983)
The Lords of Discipline

パット・コンロイの原作をもとに『さらば青春の光』のフランク・ロッダムが60年代アメリカ南部(サウス・カロライナ州)の士官学校を舞台に撮った作品。 いやぁ、士官学校でも『愛と青春の旅立ち』とえらい違いだ。

「真の男」を送り出すという名目で、学校にふさわしくない新入生を特権的にしごき、執拗に苛め、退学に追い込む覆面の学生秘密組織「10」。最上級生の主人公は初の黒人新入生を「10」から守るよう恩師に頼まれる。ところが「10」の正体を暴こうとした主人公とルームメイトたちにも卑劣な罠が待ち構えていた……。

南部の人種差別とか覆面の秘密組織といえばまるでKKKみたいだけど、この私刑集団のリーダー的な存在は、苛め役がさまになっているマイケル・ビーン!でも確かターミネーターではよれよれになってたような。

どうしてこのビデオを観たんでしょう、それは(脇役だが)ミッチェル・リキテンシュタイン出演作だったからなのだ。豪邸でモーツァルトなど弾いてらっしゃいます。
[PR]

by drift_glass | 2007-04-11 23:21 | 観る  

オリエント急行殺人事件

・『オリエント急行殺人事件』(1974)

f0134076_11543288.jpgMurder on the Orient Express
シドニー・ルメット監督 /英/128min.
アガサ・クリスティーの有名な原作は既読だが実力ある豪華キャストだけに、アルバート・フィニーやローレン・バコールなど見ごたえ十分。

アンソニー・パーキンスの役どころがマザコンを思わせる青年で、どうしたってノーマン・ベイツを連想してしまう。夜中に二度も「ママ!」と彼が寝言を言うのを同じ寝台車に乗り合わせたポワロが聞いたと言うところで、絶対観客は笑うんだろうな。

髪の色に合わせた赤い衣装で颯爽と登場するヴァネッサ・レッドグレーヴの美しいこと。
[PR]

by drift_glass | 2007-04-07 11:03 | 観る  

Wonderland - XTC Discography

・藤本成昌『Wonderland - XTC Discography』

1991年に藤本さんが自費出版した頃は"Oranges & Lemons"が最新作だったので、1997年までの補遺が3部。現在編纂中の改訂版にはそれ以降現在までのリリースタイトルが加わり、さらにレコーディング以外はほぼ休みなく組まれたツアースケジュールや各国での広告など入手できるものはすべて掲載する予定という。伝聞による情報を集めるのも好きだし、(電話帳はさすがに読む気がしないけれど)こういう正確な資料集を読むのはもっと好きだ。
[PR]

by drift_glass | 2007-04-07 09:24 | XTC  

砂の檻

・J・G・バラード「砂の檻 The Cage of Sand 」

火星にとり憑かれた3人の中年男女が赤い砂丘をさまよいながら無為の日々を送るわけだが、砂丘の彼方には柵が建てられ、彼らの周りに着々と築かれていく「砂の檻」。バラードが描いているのは人類が安直に運び込んだ火星の土の中に含まれていたウィルスに蝕まれ、砂漠化しつつある地球の絵なのだ。砂漠と廃墟と破滅をペンで描ける稀有な作家。
[PR]

by drift_glass | 2007-04-07 09:16 | 読む  

時の声

・J・G・バラード「時の声 The Voices of Time 」

「沈黙の遺伝子対」を発現させた奇形のイソギンチャクが膨張し触手を震わせながら、天窓から流れ込んでくる太陽の歌を聴こうとしているところに来るといつも感動する。「目覚めている自分」の消滅と宇宙の終末、ふたつのカウントダウンを絡ませわずか60ページに過ぎない短篇なのにこの映像効果はなんだろう。
[PR]

by drift_glass | 2007-04-07 09:11 | 読む