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アイ・アム・レジェンド

リチャード・マシスン「アイ・アム・レジェンド (I Am Legend)」

宋代の儒書からの「盡人事待天命(人事を尽くして天命を待つ)」という故事成語がぴったりの読後感。

原作者リチャード・マシスン諸作品に深く関わっている人(試写と初日の2回観たそうだ)によると、後半で特にオリジナル脚本よりカットされたところが多く、原作を読んでいなければわかりにくいのではないかと、また映画のほうは「人事を尽くして」より「万策尽きて」の雰囲気だと聞いた。それでは原題また最後の文(legend)の持つ意味が失われてしまうのでは?

NYロケで膨れ上がった制作費を回収するため配給側の方針でR指定(18歳未満の鑑賞を禁止)からPG-13(13歳以下の鑑賞には親の同意が望ましい)へ切替えたそうで、それならディレクターズカットで観たいものだ。
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by drift_glass | 2007-12-30 22:40 | 読む  

病める巨犬たちの夜

A・D・G「病める巨犬(おおいぬ)たちの夜」

「ベリー地方で、どん百姓が探偵ごっこをやる郷土推理小説の最初の傑作」

た、楽しい!地の文はフランス・ベリー地方の方言で書かれ訳者(日影丈吉氏)泣かせの作品だそうだ。ベリー地方の人々は、物語の語り手によると「鈍(とろ)くて、うたぐり深くて、早くいえばすこし遅れてて、迷信で頭がいっぱい」。

この田舎に住みついたヒッピーたちと村人がなんとなくウマがあったり、お産の面倒をみてやったり、人嫌いの老女の怪死に物見高い人たちが押しかけ、それをアテこんだ露店が立ち並び賑わいをみせるなんてなんとまあのどかな(失礼)ことだろう。

ヒッピーたちと一緒に声を合わせて歌う村人。その曲こそアメリカ公民権運動のテーマソングともいえる"We Shall Overcome" (勝利を我らに)なのだが、せっかくの歌も彼らには英語の意味がわかりませんでな……
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by drift_glass | 2007-12-27 22:42 | 読む  

拝啓天皇陛下様

野村芳太郎監督『拝啓天皇陛下様』(1963年)

小林信彦の渥美清評伝「おもろい男」で興味を持った作品。
山田正助は物心つかぬうちに両親に死別した。腹いっぱい三度のオマンマにありつける上、俸給までもらえる軍隊は、正助にとって『天国』だった。意地悪な上官のイビリも問題ではない。昭和7年大演習の折、正助は天皇陛下の「実物」を見た。この日から正助は天皇陛下が大好きになる。戦争が終わるという噂が巷に流れ出すと、正助は『天国』から送り出されまいと、自分一人くらいは軍隊に残して下さいと手紙を書き始めた。「ハイケイ天ノウヘイカサマ…」 (DVDパッケージより)

正助に読み書きを教える朴訥とした代用教員あがりの初年兵を本来ボケ役の藤山寛美が演じて、出番は少ないがすごくいい。
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by drift_glass | 2007-12-26 00:43 | 観る  

サンタ条項

ロバート・F・ヤング「サンタ条項 (Santa Clause)」

悪魔と取引してサンタ・クロースを独り占めした男。望みどおりのものを手に入れた代わりに、サンタ・クロースが存在する付帯条件としてオトナの生活を失ってしまった。
「ジェーン・マンスフィールド型美女」つまり叶姉妹のような悩殺ボディに手も出せず、ジャックフロスト、寝室にうずくまる砂男、ギター抱えた守護天使たちに囲まれ、思い余って再び悪魔を呼び出し……
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by drift_glass | 2007-12-21 21:45 | 読む  

癲狂院殺人事件

パトリック・クェンティン「」(1936)
A Puzzle for Fools

別冊宝石93号所収。
カラメルソースは焦がしやすいし、作ったあとの鍋は洗うのが面倒だ。でもあの香ばしさとほろ苦さがいいんだよねぇ。

演劇プロデューサーのピーター・ダラス(ダルース)は上演中の劇場火災で女優の妻を亡くし、失意の末アルコール中毒になる。入院先の精神病院で出たデザートが「カスタードの焼き糖蜜がけ」。 これはクレーム・ブリュレかカスタードプディングかっ?

精神疾患やその患者たちが多数登場するので、昭和34年の翻訳のままではいろいろ不具合があるかもしれない。改訳後単行本化するにしても、「癲狂院」はどうか?この邦題は変わるんだろうなぁ。
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by drift_glass | 2007-12-16 22:47 | 読む  

叫びとささやき

イングマール・ベルイマン監督『叫びとささやき』(1972年スウェーデン)

殉教聖女アグネスの名前をいただく女性が苦しみぬいた挙句の死と、ぶざまに捻じ曲がった両足の形。姉カーリン(イングリッド・チューリン)と妹マリア(リヴ・ウルマン)が長年の溝を埋めようと会話をほとばしらせる場面のマリアの顔、特に(言葉を雄弁に裏切っている)薄い色の目を強調したアングル。

また姉妹の見せかけの和解のあと、彼女たちがいまだ天国の安息を得られずにいるアグネスの魂を受けとめるどころか「腐りかけているのよ!」と恐れ拒絶し本音を吐き出させる演出には情け容赦がない。
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by drift_glass | 2007-12-13 22:56 | 観る  

刑事マルティン・ベック

f0134076_11292185.jpg・ボー・ヴィーデルベリ監督『刑事マルティン・ベック』(1976年スウェーデン)
Mannen På Taket
DVD (KKDS 398)

原題は「屋根の上の男」
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー『唾棄すべき男』(角川文庫)の忠実な映画化で、マイ・シューヴァルによればマルティン・ベックのモデルは「若き日のヘンリー・フォンダ」だそうだが、映画ではでっぷり太ったコメディアンのカール=グスタフ・リンドステッドが演じている。地道な聞き込み捜査や「デカ長」の呼び名が似合うからいいか。

DVDパッケージにはヘリからロープで吊り下げられたスナイパーが写っているが、彼(スタントマン)はリアリティを追求する監督の命令で本物の(豚の)血を口に含み撮影に臨んでいたそうだ、嗚呼。
主役が途中退場!と驚いたが、刑事とて超人ではない。動けなければ同僚が後を引き継ぐのは現実では当然のこと。引き継いだラーソン(負傷した頭を紙ナプキンで応急処置したまま走り回る)のとどめのひとこと。
「問題だな」
……。
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by drift_glass | 2007-12-09 11:29 | 観る  

カラスの飼育

f0134076_13284250.jpg・カルロス・サウラ監督『カラスの飼育』(1975年スペイン)
Cría Cuervos
DVD (THE CRITERION COLLECTION 403)

アナ・トレントのつぶらな瞳は健在だ。
繰り返し流れる曲 "Porque te vas" (Because you are leaving) "を歌っているのはJeanette。恋人との別れに泣く少女の歌が、母親を慕う子供の心情とオーバーラップしてもの哀しい。

原題はスペインの諺より。「恩を仇で返す」とか「飼い犬に手を噛まれる」という意味だそうだ。
Cría cuervos y te arrancarán los ojos.
(If you raise crows, they will peck out your eyes.)
両親をあいついで亡くした幼い三姉妹。優しく繊細な母親を賛美し彼女の幻影をしばしば見る真ん中の娘アナは、厳格な未婚の叔母にことごとく反発する。叔母も反抗的なアナへの愛情を次第にすり減らす。とうとうアナは「ひとさじで象も殺せる毒」を父の時と同じように叔母のミルクに溶かし……

アナが母親の幻影と戯れる場面はなかなかエロティックだ。
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by drift_glass | 2007-12-07 00:45 | 観る  

狼が来た、城へ逃げろ

f0134076_1958189.jpg・J・P・マンシェット「狼が来た、城へ逃げろ」
O dingos, ô châteaux!

ジャプリゾの「ウサギは野を駆ける」(映画「狼は天使の匂い」のシナリオ)のようにこれもそのままシナリオだ! 発表当時マンシェット30歳、1973年フランス推理小説大賞受賞作とのこと。

ジーナ・ローランズ主演の『グロリア』のような物語だが、「狼が来た、城へ逃げろ」のグロリア、もといジュリーは精神病サナトリウムから生意気な6歳児の子守に雇われ連れてこられたばかり。治ったのかそうでないのか、かなり頼りない。散歩に出ればわけもわからず殺されかけ、ぐずる6歳児を抱き上げ引きずり半泣きでの逃避行。めざすは一度写真で見たきりの「お城」。
山のふもとに、ほとんど無政府的ともいえるごちゃまぜに、低い家の屋根がひしめいていた。重なりあっていた。それはいろいろな国から廃屋を集めてきて、現在の建築技術を用いて狭い場所に押しこめ、つなぎ合わせたようなものだった。しかもそれは長い年月をかけて不統一にばらまかれている。

「お城」にはちゃんと塔もある。中はアリスの迷い込んだ家みたいなんだよね。
"Folle à tuer"というタイトルで1975年に映画化されているので、食べて吐き飲んで吐き飛行機に酔って吐く胃潰瘍病み、ヒロインの敵である殺し屋トンプソン役のトーマス・ミリアンをやはりなんとしても観たくなった。
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by drift_glass | 2007-12-04 19:58 | 読む