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ファッションの鏡

・セシル・ビートン『ファッションの鏡』(文化出版局)

ユリイカ1991年6月号のセシル・ビートン特集によると、パブリックスクールに入るための予備校で1級上のガキ大将イーヴリン・ウォーにいじめられていたそうだ。ジョージ・オーウェルにはいじめられなかったらしいが、いかんせん水と油で付き合いはなかったらしい。世間て狭い。ちなみにウォーのいじめは大人になってからも続き、作品に明らかにビートンの性格を誇張したとわかる写真家を登場させた…って、それは『ポール・ペニフェザーの冒険』 またの名を『大転落』(Decline and Fall)』か。
『ファッションの鏡(the glass of fashion)』は「流行の鑑」、ハムレット第三幕第一場のオフィーリアの台詞らしい。
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セシル・ビートンで検索すると彼の作品がたくさん引っかかり、カポーティ、コクトー、ホックニー、ウォーホール、ヌレエフなどを撮ったポートレイトの雰囲気と被写体の共通項でなんとなく察しはついたが、本文にしばしば登場する人名がオスカー・ワイルド、プルースト、モーム、オーデン、コール・ポーター、ディアギレフ。実にわかりやすい(何が)人だがこの本が刊行されたのは1954年。ちょっとまだ自分の嗜好を公にできる時代ではなかったようだ。

上流階級のレディから高級娼婦まで、凝りに凝ったドレスで注目を浴びた女性達の衣ずれの音や粉白粉の匂いが読者に届きそうな手放しの賞賛がスノッブそのもの。そうかと思えば晩年没落して彼の家族の世話になっていたという「ジェシーおばさん」については、昔帽子の箱に張られていた網目の型(ピンで帽子を留めつけて固定する)を彼女がスープやソースを漉すのに使うのをみてハロー校から連れてきた友人達の手前きまり悪く思ったらしいが、「後年になって、私はその態度が私自身の大袈裟で紳士ぶった礼儀正しさより、はるかに上品で自然で気取りのないものだったと悟った(『ファッションの鏡』p33)」と彼女を懐かしんでいる。

当時の裕福な女性たち(のさらにファッションリーダー)が頭のてっぺんから足の先までどのようにこだわりをもっていたか、という衣装哲学を垣間見るのも楽しい。ビートンは写真家としても衣装デザイナー(『マイ・フェア・レディ』)としても活躍した人で、自身による優美な挿絵もページを飾っているが、(男性では実践は難しいものの)ビーズやレース、ドレスにつける造花など身に着けたいと思ったことはなかったんだろうか。いや、絶対内心では自分でも着てみたかったに違いなくて、こんな熱い文章が書けるんだろうな。

by drift_glass | 2007-04-07 07:32 | 読む  

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